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土蜘蛛(つちぐも)
源頼光が病気で臥せているところへ、胡蝶という侍女が薬を持って見舞いにやってきます。そして、弱気になっている頼光に、治療次第で治るのですからと、励ましの言葉をかけます。すると今度は、いつの間にか部屋の片隅に現れた僧が、気分はどうだと、声をかけてきます。そして、実はおまえの病気は蜘蛛の仕業なのだと言うや、本性を現して、千筋の糸を投げかけてきます。頼光は枕元にあった刀で切りつけますが、その姿は消えてしまいます。さて、物音を聞きつけて駆けつけてきた独武者は、その事情を聞き、土蜘蛛退治に出かけることにします。血痕をたどって、土蜘蛛の塚をみつけた独武者一行が、力を合わせてその塚を崩すと、中から土蜘蛛が姿を現します。昔、葛城山に永年住んでいた土蜘蛛の精魂が、今の御世にも障りをなそうと、頼光に近づいたのでした。そして、千筋の糸を投げかけ、独武者を苦しめますが、終には切り伏せられ、首を打ち落とされてしまいます。
ストーリーの明快さに加えて、蜘蛛の糸を次から次へと繰り出す演出が、初心者にも面白く、人気曲の一つとなっています。
また、登場人物である胡蝶を土蜘蛛の一味と考えると、違った想像が膨らむかと思います。
さて、そもそもこの土蜘蛛とは何かと考えると、それは大和朝廷に対抗する地方勢力と思えます。つまり、蜘蛛ではなく、人間です。「土蜘蛛」以外にも「大江山」「羅生門」という曲は、源頼光の鬼退治という武勇伝、そして、中央権力の賞賛能なのでしょうが、私は反対勢力の鬼の方を応援したくなるのです。それは、私が土蜘蛛や鬼役を演じるシテ方だからでしょうか?? いや、作者の意図もそこにあるように思えてなりません。


能楽ゆかりの地
京都の北野という地名は、洛北にあった野で、大内裏の北にあたるのでこう呼ばれたという。
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北野天満宮
蜘蛛塚は北野天満宮参道を進み、二の鳥居を左へ。東向観音寺本堂の南側にある。
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東向観音寺
現在ここにある土蜘蛛の灯籠は、もと七本松通一条にあって、土蜘蛛が棲んでいたところといわれた。
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蜘蛛塚
明治年間にこの塚を発掘したが、石仏や墓標の破片が出土しただけであった。その時の遺物が、ここにある「火袋」である。それをある人が貰いうけ、庭に飾っていたが、家運が傾いた為、土蜘蛛の祟りといわれ、東向観音寺に奉納したという。